身近な生態系から地球環境を考える

特別寄稿論文:2005年 6月 20日
山形俊男 (東京大学大学院理学系研究科)

-コアジサシが戻って来た-

2005年5月4日撮影

千鳥ヶ淵で、梅雨空の鬱陶しさを吹き払うかのように気持ちよく飛翔する野鳥を見かけた。頭が黒く、背は青みを帯びた淡い灰色、胸から腹部は白い。嘴は橙色に見える。


2005年6月19日撮影

カモメよりはずっと小さく、飛び方もかなり敏捷である。時折、急降下して小魚を捕る。おそらく鯉の稚魚を捕まえているのだろう。なんとも魅力的な鳥である。早速、鳥類図鑑を調べたところ、コアジサシだとわかった。オーストラリアやニュージーランドあたりから赤道を越えて、4-7月頃、繁殖のために日本付近に渡る夏鳥らしい。


2005年6月19日撮影

環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧II 類に分類されている、貴重な鳥である。海辺の砂地や河口の中洲などに営巣する習性があり、自然の渚が減少した影響をもろに受けるためである。浜辺に入るレジャー用車両により営巣地が破壊されることも多いという。オーストラリアの環境団体のホームページをクリックしたところ、4輪駆動車の侵入禁止についての議論が見られた。東京周辺では海岸に近いビルの屋上に砂利を敷くなど、営巣を促す措置をとり始めたところもあるようだ。都心で見られるようになってきたということは、環境改善の効果が出てきたのかもしれない。これは大変喜ばしい。海外の環境団体と連携して稀少種の保護を進めるのも、とても夢が膨らむことである。

-お堀の鯉ヘルペス-

再び、千鳥が淵に関する話題である。今度はすこし暗い話になる。最近、1メートル近い大きな鯉の死体がよく浮かんでいるのを目にする。ほかの鯉の動きも鈍いように感じる。どうも鯉ヘルペスがここまで広がって来たようだ。もし,全ての鯉が死滅するならば、来年の今頃は稚魚もいなくなるから、折角飛来するようになったコアジサシも見られなくなるだろう。これほどまでに成長した鯉が大量に死ぬということは、数十年あるいはそれ以上の長期にわたって無かった事件ということになる。鯉ヘルペスウイルスによる鯉の大量死は1998年にイスラエルや米国で始めて報告され、その後ヨーロッパやインドネシアに広がった。ウイルスの同定は2000年なので、最近発見された新手の感染症である。まだ多くのことがわかっていないようだ。ところで、東京大学の宮崎信之氏らによると、夏にシベリアなどの高緯度地方で生活する鴨が冬に日本等のアジアに渡り、その結腸に潜むA 型インフルエンザウイルスを糞とともにばらまくことから、鶏や豚を経由して人間界にインフルエンザが流行するらしい。まったくの素人の推測ではあるが、鯉ヘルペスの拡散と渡り鳥の関係はないであろうか? コアジサシは感染地域のインドネシアを超えて飛行してくる。もし、この推測が正しいならばコアジサシのお堀への飛来は素直には喜べないことになる。

-地球環境の保全に向けて-

今年の日本列島の夏は北冷西暑のパターンになるのではないかと予想している。遥か彼方の熱帯や寒帯の海の異常が影響することが考えられるためである。われわれはこうしたグローバルな気候変動を日々のローカルな天気の変化としてしかとらえられない。時空間スケールが非常に違っていても本当は両者は密接に繋がっている。生態系においても同じことが言えるのではないか。ローカルな視点とグローバルな視点を絶えず交流させて環境を守ってゆく必要があると思う。新生エコロジー・カフェの地球規模での活動を多いに期待したい。

最終更新日 (URL 変更):2013年 9月 8日
掲載/更新日:2005年06月20日 / 編集

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