赤城自然園を未来に

寄稿論文:2007年 5月 10日
山崎俊巳 (エコカフェ運営評価委員)

プロローグ

新緑が眩しい5月です。自然は新たな生命に溢れエネルギーレベルが一番高い季節です。英国王立園芸協会 (RHS) 主催のチェルシー・フラワーショーのショウガーデンを知っていますか。私は行ったことがないが、120年以上続く世界で最も権威のある伝統的イングリッシュガーデンショーで、毎年 5月下旬に開催されます。近年では日本人の出展作品は賞を受賞する機会が増えているらしく、枯山水、路地、わびさびなど日本伝統要素を取り入れたものが評価されているようです。伝統的な価値観をコアにしつつ、新しい価値観を柔軟に取り入れているのでしょう。

インターネットで「イングリッシュガーデン」と検索すると 30万件近くの該当結果が瞬時に表示されます。今年 4月 12日から 17日まで大阪の百貨店で第1回イングリッシュガーデンショウが開催されました。生活に花があると心が和みます。都会暮らしでは狭い空間を工夫するより他はありません。特にマンション生活では庭は望めず、ベランダや部屋空間を活かすことになります。近年の文化の発信は都市からが多いと思われます。

赤城自然園の今

皆さんは「赤城自然園」を知っていますか?群馬県中央に位置する 100名山のひとつで、標高 1,828m の赤城山の南西山麓の中腹部標高 600m から 700m に 36万坪ほど広がります。東京都心からは車でも電車でもアクセスにかかる所要時間は 2時間ほどでしょうか。園内には、世界各国からコレクションしたシャクナゲ 1,200種、和シャクナゲ12種やこの地に特有なツツジをテーマにした「セゾンガーデン」(イングリッシュガーデン) が、この季節、多くの花が香り高く乱舞する素晴らしい庭園を体験せて、至福に満たしてくれています。毎年ゴールデン明けに、英国王立園芸協会日本支部 (RHSJ)・クレディセゾンゴールド会員を対象とした鑑賞イベントが組まれています。リピートされる方も多いそうです。

セゾンガーデンの色どり
セゾンガーデンのベンチ
赤白のヤシオの花

園内は、セゾンガーデンのほか、アカマツ林、森の遊び場、炭焼き小屋、お花畑からなる「四季の森」、カブトムシの森、昆虫館、カタクリの林、野鳥の原っぱ、ミズスマシの池、チョウの原っぱ、コナラ林、トンボ池、スギ林からなる「自然生態園」がゾーンニングされ、四季を通じて愉しむことができるように整備されています。ここは、人の手により整備された二次林ですが、20年の歳月を経て自生植生との調和による生態系の遷移が進み、アサギマダラ、オオムラサキなど昆虫が 1,810種、オオルリ、コゲラ、イカルなど鳥類が 77種、ニホンジカ、イノシシ、ホンドキツネ、タヌキ、ヒミズなどの哺乳類約15が観察されるまでになっているそうです。4月から 5月にかけては、色とりどりの草花が次から次へと咲き、訪れる人の心を愉しませてくれます。特に、6月には、ゲンジボタルが夜な夜な乱舞し、幻想的な世界を演出し、そのためのナイトツアーも企画されます。園内の清流はどこまでも澄み、陽光が差し込みホタルの幼虫のエサとなるカワニナが生息できるほどに珪藻類が豊かに育っているようです。

自然園の西側半分は整備中エリアとして閉鎖されていますが、20年の間、人の手を離れ自然の推移に任せたせいもあって自然林に近い森となり、春から夏にかけては多くの生命に溢れているはずです。おそらくこの森では、林冠の状態が林床の光・温度・湿度などの生態環境に大きな影響を与えており、水平軸だけでなく垂直軸で観察すると全く違う世界観を味わうことができます。林冠付近では盛んに小鳥たちが虫を追っていたり、その下を蝶が舞っていたりします。台風による倒木は、次なる世代を形成する幼木の苗床となっているでしょうし、禿地は、一年草からススキ、赤松の林へと遷移の過程を観察できるかもしれません。

アザミの花とアサギマダラ
シイ・カシの雑木林
一休みのナツアカネ

赤城自然園の未来

インターネットで「赤城自然園」を検索すると検索結果は 530件余りである。ということは、ほとんど世の中に知られていないということです。インターネットでの検索件数は、ある意味で社会的認知度を反映していると考えられます。そこで参考までに、上野動物園が、82万件、入園者数で上野動物園を抜いた旭山動物園が 109万件、東武動物公園が 59万件の検索結果です。植物園では、日光植物園が 25万件、小石川植物園が 18万件、舞鶴自然文化園が 12万件、徳川園が 8万件、北大植物園が 2万件、目黒自然教育園 1万件という概数になります。

植物園は、日本では大衆化しているとは言いがたい状況ではないでしょうか。高山植物や山野草などの植物観察ということでは、軽登山、トレッキング、ハイキングの中での自然と触れ合いながら散策するニーズが多いように思われます。ちなみに、国民的に人気のある「尾瀬」をインターネットで検索すると、結果は 183万件にもなります。舞鶴自然文化公園は、世界各国のツバキ 1,500種をコレクションにするなど誕生の背景は赤城自然園と同じですが、その後に舞鶴市が全体を取得し、無料開放しており、多くの市民に楽しまれるなど、少し事情が異なるようです。徳川園は、名古屋市内に位置し、ガーデンレストランや年間を通じて四季折々にミニイベントを開催するなどの工夫を凝らし、集客を延ばしています。大学付属の植物園もご苦労が多いようです。

旭山動物園は、それまでの動物園の常識を変えたことで有名です。それは飼育員らが動物たちに尊敬の念をもって対等の視点で接することから始まったようです。動物たちがプライドをもって堂々と、そして生き生きとしている、そして一体的な感動を得られるよう目線を同じにするなど観察の仕方にも工夫が凝らされていることが特徴的です。檻の中にディスプレイされた動物たちでは瞬間的な感激はあっても深い感動は生まれません。動物たちの日常的な仕草にまで興味・関心が自然と入り込むと、お客様はリピートし、常連となり、いつのまにか園側のよきボランティア・ガイドとして、お友達やご近所の人びとを誘い合わせるなど新たなお客様を呼び込んでくれることになります。そこには前に来たときと決して同じではない、変化がある、変化があるから、新たな気づき(発見)や感動が継続するのです。本質を捉えたお客様づくりをすることが重要です。

森でいろんな発見を
冬枯れの散策は
高いところから見ると

幸い赤城自然園の森には、宮沢賢治の小説にあるように私たちの五感六感といった喜怒哀楽の本質を揺さぶってくれる機能が揃っています。樹種や土質、湿度などが森を香らせ、小鳥のさえずり、虫の音、木々を縫う風や小川のせせらぎを聞き、森を触って、口に含んで、柔らかい陽光や色とりどりの美しい草花が目に飛び込み、豊富なフィトチットンやマイナスイオンは脳幹を優しくしてくれます。UNESCO 平和芸術家に日本人で初めて任命されている城之内ミサさんも森で聞かれる音はどんな音楽よりも優れているとおっしゃっていました。一方、深い森は視界を狭くし、私たちを不安に陥れたりします。特に、暗い森や夜の森はそんな傾向が強くなります。そこでは、私たちは想像を逞しくする必要があり、一緒にいる人との信頼を確保する必要もあります。そんな森は、かつて縄文の人びとが狩猟採集の暮らしをしていたフィールドでもあるのです。

また、赤城自然園は、植物を中心としていますが必然的に植物以外の生物をも観察することは可能であります。四季を通じての生命の営みがあります。自然は、刻一刻と変化しているのです。昔の人びとは、変化するもの全てに生命が宿ると考えていました。「山河草木悉皆国土成仏」とはまさにそのことです。常に変化していることこそが、自然園の魅力になり、コンセプトになるべきだと思います。「自然との共生と循環」や「新たな気づきと交流の創造」、「バーチャル (都市) とリアル (自然園)」といったキーワードを軸に今日的な文脈 (物語) を紡ぐことが赤城植物園の未来を創造するでしょう。

エピローグ

技術革新は日進月歩から秒針分歩とまで言われるようになっています。特に、私たちが利用している情報通信技術は、金融取引・経済取引などもっとも重要な社会基盤であるとともに、この技術が瞬時に複数の異地点間を結んだり、世界中のサイト検索をしたり、徹底した効率化の機能を提供するなど、私たちの生活様式さえ方向転換させるような威力を内在していると考えられます。あらゆる技術がそうであるように、それはあくまで手段であるわけですから、使うものの意思や思いが重要になってきます。

私たちは、技術革新を制しているようで、トゥーマッチな機能に振回されているような気もする。赤城自然園のような美しい自然 (芸術的自然) を生活の中に工夫して取り込むことで、安らぎを回復し、新たな活力を充填するのも良いのではないでしょうか。

最終更新日:2012年 08月 16日
掲載/更新日:2007年05月10日 / 編集

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